協和キリン株式会社はメディカルアフェアーズのグローバル業務基盤としてVeeva Vault Medical Suite(MedInquiry、MedComms、Veeva Medical CRM) を導入しました。大規模な導入プロジェクトはどのように行われたのでしょうか。グローバルPMOの一翼を担いプロジェクトを推進した、Head of GMAE/gMAP Office, Director, Global Medical Affairs Excellenceの神田豊様に、採用の決め手や今後のビジョンなどについてお聞きしました。
世界中のVoC(Voice of Customer)を一元的に集約・管理し、真の患者中心主義へ
北米、ヨーロッパ、APAC、日本の4拠点で事業を展開する協和キリン株式会社のメディカルアフェアーズ部門は、グローバルにおける業務プロセスの標準化やデータ管理に大きな課題を抱えていました。各拠点の業務プロセスが平準化されておらず、製品に関するインサイトをグローバルレベルで検討しにくい状況が続いていたと言います。こうした状況を打破しようと、メディカルアフェアーズのグローバル業務基盤として導入されたのが、Veeva Vault Medical Suite(MedInquiry、MedComms、Veeva Medical CRM)でした。
グローバル基盤構築が必須
日本に本社を置き、北米、ヨーロッパ、APAC、日本の4リージョンでグローバルビジネスを展開する協和キリンは、「日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、病気に向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の継続的な創出を実現します」との2030年に向けたビジョンを公表しています。
連動する「デジタルビジョン2030」の中にも、メディカルアフェアーズ業務のデジタル化、グローバル化が明記されており、全社のデジタル戦略の一環として、メディカルアフェアーズの分野でもグローバルに適合した基盤構築が必須でした。このため、グローバルにおける業務プロセスの標準化やデータ管理、適切な外部パートナーとの連携が課題となっていました。
基盤を構築する以前は、業務プロセスやシステムがリージョン間でバラバラに構築、運用されており、データの標準化などに大きなコストがかかっていました。グローバルレベルでインサイトを検討・生成し有効なメディカル戦略につなげることが難しい状態だったのです。
課題解消のための社内の枠組みが、「gMAP(Global Medical Affairs Platform)」です。メディカルアフェアーズビジネスのグローバル化を、テクノロジーとプロセスの実装を通じて統一されたプラットフォームによって実現するもので、グローバルと4リージョンの協働プログラムとして運営されています。
このgMAPには構想段階からICT部門が参画し、プラットフォーム構築のためのソフトウエア選定が行われましたが、決して平坦な道ではありませんでした。
数年に及ぶ、戦略策定と主要ソフトウエア選定の調査・議論の結果、3つのVeeva製品の導入が決まりました。医療従事者からの医薬品の問い合わせ管理を行うVeeva Vault MedInquiry、各種メディカル資材の一元管理を行うVeeva Vault MedComms、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とKEE(Key External Expert、社外医学専門家)とのコミュニケーションやインサイトの管理を支援する顧客管理システムVeeva Medical CRMです。
ビジョンと戦略に最も合致
Veevaを選んだのは、一言で言うと、グローバルメディカルアフェアーズのビジョンとビジネス戦略に最も合致する製品やサービスを扱うベンダーだったからです。また、CRM、MedInquiry、MedCommsの3つの相互連携によって、各メディカル資材を1つの信頼できるソース(Single source of truth)として活用できる点が大きかったです。当時、データソースをグローバルでセキュリティを確保しつつ一元管理できるツールは決して多くありませんでした。
協和キリン株式会社
Head of GMAE/gMAP Office, Director, Global Medical Affairs Excellence 神田 豊様
今回はグローバルプロジェクトだったため、導入はVeevaのグローバルチームが主導しました。日本のVeevaはサポート役でしたが、困ったことが起きたり、アドバイスが必要になったりした時は適時で的確にサポートしてくれました。RA(薬事)、QA(品質保証)といったメディカル以外の部署で、すでにVeevaをグローバルで導入・運用していたというのも安心感につながりました。
実際にソリューションを活用するにあたっては、現場の理解が欠かせませんが、導入後の不具合の解消や使い勝手の改善についても、Veevaと一緒に取り組んできました。今では、各リージョンのニーズやレギュレーション、ビジネス習慣に合わせつつ、グローバル一元化もできる、という良いバランス(“More Globally Aligned”)で運用を進められています。
一元化、真の患者中心主義にも直結
私たちは日本発のスペシャリティファーマとして、自分たちの戦略に基づく事業領域に最適な顧客チャネルを各リージョンで整備する必要があります。グローバルプラットフォームとシームレスにつなぎ、世界中のVoC(Voice of Customer)を集約・一元管理する仕組みを構築していきたいと考えています。
MedInquiryで扱う問い合わせの中には、患者さんや家族により近い、切迫感のある声も含まれます。個人情報はもちろん守りつつも、こうした患者さんの生の声をグローバルで集約していくことは、真の患者中心主義につながるはずです。
ソフトウェアの導入と言うと、業務の自動化・効率化といった価値に重きが置かれがちですが、業務プロセスの標準化や監査対応、ユーザーサポートなどを考えても、データとオペレーションが一元管理できているのは我々のビジネスを支える重要な要素である、というのが実感です。
また、一元管理はBCP(事業継続計画)の観点からも、大きな意味があります。問い合わせ対応は、自社のBCPの中でも優先度が高い業務ですが、共通システムを使うことで、例えば、大規模災害などで日本での対応が難しくなった際でも、他リージョンからのカバーが検討可能になります。
今、グローバルとリージョン、メディカルとICT、が枠を越えた「ワンチーム」として機能し、シームレスなアプローチが取れる土壌が整ってきたと実感しています。ビジョンや戦略に合致したチャネルをグローバルで整備して、医師や医療従事者との国境を越えたエンゲージメントを進めつつ、社内他部署のグローバルプラットフォームとgMAPとを機能的に連携させ、将来のイノベーション創出に向けて更なるデータ活用を進めていきたいと考えています。次の新しい薬剤の上市に向けて、必要な機能増強をタイムリーに実装し、運用を整え、ユーザーに安心して使いこなしてもらえる状況を形成できるかが、今後のチャレンジです。
グローバルとリージョン、メディカルとICTが枠を越えた「ワンチーム」として機能し、シームレスなアプローチが取れる土壌が整ってきたと実感しています。
※この事例は、2024年6月に行われたVeeva Japan Commercial Summitでの神田様登壇のセッション内容を元に、追加取材をして作成しました。内容はご本人の私見であり協和キリンを代表するものではありません。
※所属部署はインタビュー当時のものです。