Veeva Japan Blog

2025年のコマーシャル領域の予測:標準化とAIの採用で、新たな科学に対応する

科学の進化に伴い、迅速かつオンデマンドに科学的な情報を得たいという医師のニーズが高まっています。シンプルなプロセスと共通のデータを持つ部署横断のコネクテッドチームは、より迅速で効率的なサービスを提供するようになり、戦略的な AI の活用が起爆剤になるでしょう。Veeva のコマーシャルエキスパートによる 2025 年の予測を紹介します。


Matt Farrell

— Matt Farrell, Executive Vice President, Commercial Strategy

新しいエンゲージメント・モデルが取り巻く環境の複雑性に運用の簡素化で対応する

バイオ製薬企業は 20 年以上にわたって顧客中心主義を追求してきましたが、それを達成したと言える企業はほとんどありません。コマーシャル組織の内部の最適化が進むにつれて、システムやデータは更に切り離され、1 つの企業として顧客と関わることが、一層難しくなっています。同時に、治療の複雑化、エンゲージメントの嗜好の進化、医師ら HCP との接点の変化により、統合されたアプローチの必要性が高まっています。

こうした事態の複雑化に対応するため、コマーシャル組織はよりシンプルになっていくでしょう。複雑な統合を排除し、システム間のワークフローをつなぎ合わせることで、チームはより迅速に、かつ効率的に HCP のニーズに対応できるようになります。コマーシャル組織全体で顧客を一元的に把握することで、摩擦を減らし、各顧客とのインタラクションにおけるコラボレーションが可能になるでしょう。

すべてのコマーシャル組織が単一のシステムで運営されることで、マーケティングキャンペーンは、営業担当者が送る承認済みメールをシームレスに戦術に組み込み、HCP の好むチャネルへメッセージを届け、問い合わせをコンタクトセンターにつなぐことができます。これにより、即時の組織横断コラボレーションで、迅速かつ正確な対応が可能になります。

このシンプルで統合されたエンゲージメント・モデルは、真の顧客中心主義、そしてより革新的なコマーシャル運営の基礎を築くことになるでしょう。


Dan Rizzo

— Dan Rizzo, Vice President, Global Head of Business Consulting

複雑な医薬品提供に対応するため、コマーシャル部門とメディカル部門の垣根が低くなる

研究開発パイプラインのスピードと革新は患者にとって大きな恩恵ですが、同時に新たな課題も生んでいます。それは、莫大な数の新しく複雑な治療法について、医師ら HCP に素早く情報提供することです。ある分析によると、開発中の医薬品の数は2012年から2022年の間にほぼ倍増しました。さらに、パイプラインにある医薬品のほぼ 70 %は、潜在的に各カテゴリーの「ファースト・イン・クラス」となる治療法です。

バイオ製薬企業は、これらの新しい治療法の導入に関連する HCP の複雑な情報提供とサポートニーズへの対応に焦点を移すでしょう。科学的根拠とサービスでの差別化が最も重要となり、企業はコマーシャル部門とメディカル部門で、従来の壁を越えた役割の連携を進めることになります。さらに、インセンティブは、患者支援、HCP への科学的情報の提供、治療開始の障壁の排除を対象とする形にシフトする必要があり、コマーシャル部門とメディカル部門が共通の成功を目指して連携するモデルが求められます。


Peter Stark

— Peter Stark, Executive Vice President and General Manager, Compass and OpenData

オペレーショナルデータの新たな基準で、業界全体の効率性が向上

オペレーショナルデータのソースでは、同じ情報を記述するために異なる名前や形式が使用されることがよくあります。企業が新しいデータセットを継続的に追加する上で、これが大きな非効率性と無駄を引き起こします。さらに、その後のプロセスにも悪影響を及ぼす可能性があります。

シンプルなオープンデータ基準のセットの導入で、共通の理解と相互運用性が生まれます。名前、データ形式、定義に関する一貫した構造を持つことで、企業は分類のあり方を議論することなく、すぐに作業を始めることができ、システム間で迅速にインサイトを取得して、顧客エンゲージメントをより効果的に築くことができます。

これは、AI や高度な分析アプリケーションを大規模に導入する企業にとって特に重要です。オペレーショナルデータの新しい基準が広く採用されれば、統合の迅速化や、メンテナンスの簡素化、正確性の向上を通じて、業界全体が前進します。


Pooja Lal

— Pooja Lal, Vice President, Commercial Content

MLR(メディカル、法務、規制)コンテンツレビューは、AI の初期の成功事例となる

コンテンツ作成、評価、品質チェックにおけるAI利用事例の増加は、コンテンツの量を過去最高に押し上げる一方、マーケットへの適切なメッセージ発信を一層難しくします。その結果、AI への投資を MLR(マーケティング、法務、規制)レビューの改善に集中させるコンテンツチームやエージェンシーパートナーが、最初にROIを実現することになるでしょう。

AI 活用によるレビューサイクルの短縮、サイクル時間の削減によって、MLR チームは強化され、コンテンツ量が増加してもコンプライアンスに準拠した正確なコマーシャル向けコンテンツの迅速な提供が可能になります。これらの効率化により、MLR レビューはコンテンツサイクルの最終段階から、コンテンツ作成エンジンへのより積極的な関与と可視性を持つ役割に移行し、再作業の削減に繋がります。

標準的なタクソノミーによるコンテンツ分類や、独自システムの排除、ホスティングされた大規模言語モデルの活用で、コンテンツ供給チェーンの複雑さを排除する組織は、より迅速かつ効率的に動くことができます。量より質を優先するコンテンツおよび MLR チームは、AI から価値を引き出すコマーシャルリーダーとして早期に台頭するでしょう。


Brian Mahoney

— Brian Mahoney, Vice President, Analytics, Business Consulting

高度な分析 AI 導入の成功は、人材第一が鍵

コマーシャル組織が高度な分析に AI の導入を検討する中で、AIの限界にも直面せざるを得ません。例えば、AI が生成する「次のベストアクション」は、営業担当者の訪問計画から医師ら HCP へのアクセスの難しさ、インセンティブ報酬プランまで、簡単には考慮できないさまざまな変数を考慮する必要があります。もし推奨された次のアクションが、営業担当者が実行できない、あるいは実行しないものであれば、AI は、システムに無駄なノイズを加えるだけです。

その結果、AI 先進企業は、慎重に選んだ取り組みの中から最高の ROI を得るために、人材への投資に注力するでしょう。高度な分析へのAI導入は、企業が事前に課題の定義、データの構造化、そしてインサイトに基づく行動を行うユーザー教育に時間をかけた際に最も成功します。AI 先進企業は、知識やスキルのギャップに対応するチェンジマネジメントの文化も築くでしょう。

しかし、分断されたシステムに追加される AI ツールや、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールとの複雑な統合が必要な AI ツールは、インサイトの提供を遅らせ、ユーザーの受け入れを妨げることになります。意思決定を補完し、ユーザーのワークフローに組み込まれた AI は、まるでリアルタイムで運転手を交通渋滞から案内するナビゲーションアプリのように、広く利用され、長期的な ROI の実現への道を開くことになるでしょう。


Christoph Bug

— Christoph Bug, Vice President, Global Medical

メディカル部門はリーダーたちにより活動主導からアウトカム主導へと進化する

医薬品のイノベーションや複雑化によって科学的交流へのニーズが増しています。データによると、メディカル部門が医師ら HCP や、KOL(キーオピニオンリーダー)との薬剤上市前後に効果的に交流すると、治療への採用が改善されることが示されています。この増大する顧客ニーズに対応するために、企業は投資をシフトし、科学的交流のためのリソースを増加させるでしょう。

しかし、コンプライアンスに準拠した明瞭かつ定量的な成功の尺度がなければ、メディカル・アフェアーズはその有効性が制限され、メディカル・インパクトの実証に苦労することになります。データ主導のアプローチを積極的に取り、従来型のモデルに挑むメディカルリーダーは、活動主導からアウトカム主導へと進化する先駆者となります。最初の重点分野は、満たされていない患者ニーズの特定と定量化、臨床実践の変化、患者の症状の改善となるでしょう。

変革マインドセットを持ったメディカルリーダーを惹きつけるために、企業はメディカル・アフェアーズへの投資を優先し、先進的な測定ツールの導入に向け必要なリソースを確保するでしょう。アウトカム主導型リーダーは、主導権を握り、自らの言葉を持ち、行動を起こさなければなりません。


Chris Moore

— Chris Moore, President, Veeva Europe

クリーンデータ重視が、EU における規制準拠型 AI イノベーションを促進

最近の AI イノベーションの波は、業界のコマーシャル部門を変革するには至っていません。2025 年には、欧州のバイオ製薬企業のうち、社内外のデータをうまく統合できる企業がコマーシャル部門での利益を見出すことになります。

バイオ製薬企業は、既製アルゴリズムの購入から、AI エンジンに供給するクリーンデータの確保へと戦略を転換させるでしょう。社内で検証された信頼できるソースからデータを取得することで、AI が生成する結果に対する信頼性が高まります。これにより、単一市場、単一ブランドのソリューションから企業全体へとパイロット事業の拡大が容易になるでしょう。

EU では最近、人工知能法(Artificial Intelligence Act)が導入されました。これは規制当局による初の包括的な AI 規制で、インサイトが安全に開発されるように設計されたものです。既存の欧州データプライバシー規則とともに、欧州のバイオ製薬企業は将来の投資とイノベーションを支えるための明確な原則を手に入れることになります。データを整理し、新しい情報ソースを確保し、この規制の枠組みの中でデータを分析できる企業が商業的な成功を収めるでしょう。